Ⅲ チョコレートを支える生活文化

2.チョコレートをめぐる新しい動き

チョコレートはドリンクとして一般市民に浸透し固形チョコレートとして広がっていったが、固形の概念だけではなくスイーツの一部としてチョコレートと見てみると、現在多種のチョコレート製品が生まれている。ティラミス、チョコレートケーキ、ジェラート等が挙げられるが、性別・年齢間わず、食事の後に、または間食として嗜好されている。トリノには唯一の国立のお菓子学校も存在している53)。

トリノはイタリアの中でも美食の街として知られており、食の関心の高い街である。1996年から隔年で開催されている食の祭典「サローネ・デル・グスト」では開催期間5日間、参加者14万人と大規模なイベントであり、ここでは、チョコレートを使った新しいスイーツやチョコレートを使った料理のレシピ54)など、食の在り方が試行されている。例えば赤ワインとのコラボレーションやチョコレートソースをデザートだけではなく料理にと考えられている。

ディナーにチョコレートが登場することにより一口のチョコレートから食生活の新しい挑戦と革命が始まる。また、最近の健康志向ブームにより、お菓子職人は、農薬や化学肥料を使わずに栽培されたカカオ豆を使って作ったオーガニックチョコレート菓子やオーガニックチョコレートソースを使ったデザートを生み出している。

イタリア人は昼食・夕食の際、最後のデザートまできちんと頂く。デザートの種類はチョコレートケーキ、チョコジェラート、チョコクッキーなどが食卓に並ぶ。朝食に関しては、チョコクリームをパンに塗って食べたり、チョコレートを口に入れてコーヒーで仕上げたりと簡素なスタイルが多く見受けられる。チョコレートは生活を愉しませ豊かにしてくれる食の文化だと考えられる。

トリノ市民にとって、チョコレートを口にすることは毎日の習慣なのである。チョコレート好きの彼らだが、一人当たりの砂糖消費量を国際比較で見てみると、イタリア人の一人当たりの砂糖消費量は低くなっている。

これはイタリア料理には、基本的に味付けとして塩・コショウ・オリーブオイルを用い、砂糖を大量に使う習慣がないからだと推測できる。砂糖の代わりに摂取できる甘味料がチョコレートなのだと思われる。筆者の友人のエンツァ女史は、毎週末自宅を開放して夫婦で料理サロンを展開しているが、オーガニックチョコレートを練りこんだパンなどは、健康志向ブームと相まって人気が高いということである。この他にも新しいチョコレートの食のスタイルを考案し試作を続けている。

食文化には遊び心を満足させてくれるポスピタリティが必要なのである。トリノ市民とチョコレートの関係は、17世紀に一般市民にチョコレートドリンクが浸透してから時間の流れと共に歴史と文化を創ってきた対の関係性が存在すると思われる。

中津孝吉